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2020年 10月 06日
「長っちり」 長く腰を下ろしたままの尻つき、転じて他人の家を訪れてなかなか帰らない人のこと。なんて言葉がありまして。 今も昔も飲み屋というものがありますが、私この前少しばかり飲み屋の店員になった事がありまして、よく行く飲み屋のマスターがなんでも話の五割は聞いていないなんて風に冗談めいていましたが、作業をしながら話をするというのはなかなか難しいものでした。 そんななかチップをくれる気前のいいありがたいお客さんもいれば、厄介なお客さんというのもいるもので。 酩酊した客。店に入るなりひゃっくりが止まらない。一体なにしに来たんだと。 もう一つはありがたくもたくさんごちそうしてくれるお客さん。たしかにありがたいんですけれど、どんどん勧めてくるんですね。 酒を飲みながらの接客はなかなか堪えます。ほんと、ありがたいんですけどね。 もう一つは長っちり。 田舎の電車みたいに一時間に一杯のペース。 いろんなお客さんがいますがお客様は神様といいますから無下にはできません。 しかし、他の神様に迷惑をかけてはいけないのは言うまでもありません。
昔の江戸っ子。江戸っ子というのは三代続いて江戸に住んでいる人のことを指すのですが、この江戸っ子というのは長っちりを嫌う人が多かったとか。 そのためあんまり長いこと同じ店に居座るなんてことはなかった。なかでも八五郎は度の過ぎた方で、二杯飲んだら次の店。そのまた二杯で次の店と。 「長っちりをするほど暇じゃなくてね、それじゃあまた」なんていう。 そんな気難しい八五郎のところにも縁談が持ち込まれる。 お松といって、若くて器量がいい。男連中にも大変人気でさっぱりした八五郎とは息が合った。 「八五郎さん、よかったら一緒にお酒でも」 男女が仲良くなるには酒がいいとお姉さん方から聞いていたお松。さっそく八五郎を誘う。 「そうか、それならあいさつがてら飲みに行くか」 なんていって八五郎とお松。二人で夜の飲み屋へ。
「おう、八五郎、なんだあの噂は本当だったんかい」 焼き鳥屋の親父は喜んで二人を迎え入れる。 「今日はあいさつまわりだからよ。長っちりはごめんだ。二杯で失礼するよ」 「じゃあ、いつものかい」 「徳利で、お松も呑むからお猪口は二つな」 徳利傾けあって二人で二杯。いつもは一人で二杯なので倍速い。 「じゃあ、またな」 「もういくの」 お松は驚いたのなんの。赤ちょうちんのおでんに通りがかりのうどん屋。いつものあいさつ回りで店を転々とする。 「よし、次行くぞ」 「もういくの」 次第にお松もそうとは言わず、酒も入って二人の足取りは遅くなっていく。 「おう、八五郎さん。随分と美人さんを連れて」 「今度結婚するんだ。だからよ、そのあいさつまわりというわけさ」 「そしたらうちで一杯飲んでいくか」 お店以外でも知り合いがいれば飲みに行く。 お松も大分酔ってきていたからどうとは言わずついていく。 そうして一通りあいさつまわりが終わって長屋に戻る。 酔った男女がすることといえば相場が決まっている。布団に転がり込んだ八五郎とお松。雰囲気に飲まれてお互いにお互いを求める。 そうかと思えばもうだめだと八五郎。それにお松、すかさず一言。 「もういくの」
長っちりという話でございました。
by bookumakk
| 2020-10-06 20:00
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