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2018年 06月 08日
権助という男がいた。 この男、どうにも怖がられることが多々あり、情事ともなれば真面目な坊主と大差ないほど経験というものがなかった。 というのも、まぁ、花形というわけでも、いぶし銀、とも言わず、三枚目というほどに陽気なものでもなかった。 ここまで言ってしまうと、まるでお天道様に嫌われたか、親がよほどのことかと思ってしまうものだが、六枚目くらいまで様子を見れば、なるほど確かに気前もよくて商売もできる男だった。 顔は悪いが飯には困らぬ。仲間内の男たちはこの気前のいい男を勧めたものだが、いかんせん女の意見ともなれば、魑魅魍魎で腹を満たすのはためらわれた。 何より、この権助。他人に言われなくとも顔が美醜の後の方だということはわかっていて、これといって抗うこともしなかった。 そのため、いたって真面目な表情であっても、仇討をしに行く前の顔に見えるものだった。 このいい男をどうにか幸せにしてやりたい。おせっかいな人がいた。なに、権助の取り巻きだ。類は友を呼ぶと言ったものが良い方向に働くと、こうもお人よしが集まるもので、彼らはわざわざ権助なしに飲み屋の席に集まって考えを言い合った。 「あいつは自信がないのがいけない」 「いや、自信がなければ商売なんてできないだろう」 「そういうことじゃないだろ。ようは、その、顔についてだ」 「あれで開き直るような性格ならまだな」 「いやいや、それがあいつのいいところだ。だから商売もうまくいく」 「なんだかそれじゃあ、顔が悪いから商売がうまくいっているみたいじゃないか」 「女も商売とは違うだろう。いくら払っても一晩限りだ」 共通の話題ともなれば酒が進むこと進むこと。話題は相変わらず権助だったが、嫁にするならだれがいいかという話にそれてしまうのだった。 「しかし今日もまた、何も決まらずじまいだったな。おい、大将、帰るよ」 「おあいそね」 「あぁ、なるほど、そういうことか。大将、やっぱりもう一杯頼むわ」 それで、この二日酔いの連中が翌日どうしたかというと、権助に会うたびに各々が彼を笑かそうとしたのだった。 権助は訳が分からず、酒の席でもないのに割りばしを咥える様や、白粉まみれの顔、イカ墨で真っ黒になった歯など、友人たちがそろいもそろって妖怪の類に憑かれてしまったのかと、面白おかしく笑ってしまうのだった。 「どや、笑かしたぞ」 「いや、俺の方が面白かった」 「なにをいって、俺のあの大福顔のが」 いつからか彼らは権助を笑わせるよりも、誰が一番面白いかに固執し始め、権助の笑わない日は床にはいるときくらいのものだった。 「なんだか、今日は機嫌でもよくて」 「いや、特別そんなことは」 「いい取引したついでですけど、そうやって笑っている方がいいですよ」 商談を終えた権助は、不思議とあのおかしな光景を思い出しては自然と笑みがこぼれてしまっていることに気がついた。 人間、笑わないようにするほど、その面白いことを思い返してしまうもので、笑わせるつもりもなくお茶でもしようと、大福を買ってきた友人の前で大笑いするのだった。 「大福を、大福が食らうんだが、その口を開くと、すでに餡がぎっしりと、あぁ、ダメだ、これは」 饅頭怖いではないが、権助に大福を持っていくと面白いものが見られるという話になってから、これまた権助の笑わない日はなくなった。 それから権助の大笑いというとなかなかいい笑顔で評判になり、堅物だと思っていた世間の目もすっかり変わり、その笑顔が好きな女子がいるなんて話も聞こえてきた。 それから、権助のところにわざと笑わせにいこうだなんて人はいなくなった。 「ねぇあなた、少し休んでお茶でもしませんか」 「たしかに、そうしようか。何か菓子でもあれば」 「あいにく」 「少し前までは、嫌でも大福を持ってきたというのに」 「大福と私、どっちがいいです」 「お茶だけで十分だ」 つと、二人は頬を赤らめた。 終わり。 ----------- 完結作品。「タイトル」ジャンル 「価値のないワイドショー」不貞 「かんから」芸術 「ガラスの瓶」裏切り 小説・リメイク作品「僕が見たあの夢の続きを」フィクション 過去作「半分の夢」を書き直した作品。 小説「盲目モグラの恋」 小説「酒池肉林と菓子の家」 小説「家畜捜査」推敲一回目 超短編小説「店番のあの子」 恋愛 店先で店番をするあの子。恥ずかしさで遠目にしか見れない少年は彼女のことをよく知らない。 超短編「虹を追いかけて迷子になった子供」改訂版 動物 飼う時から、家族として受け入れる時からわかっている短い命の家族。それでも、その出会いは何物にも代えられない。 超短編小説「傘女と小雨坊」人情 梅雨の時期、傘女になった母親に捨てられた子供は、その仕草から小雨坊と呼ばれていた。 ------------ 声劇団SHI'STUDIOの皆様にご協力いただき、 ボイスドラマを作りました。是非聞いてください。(dropboxからDL推奨。今後は動画サイトへの投稿を予定) 「山芋ウナギ」 私がとってもハマっている「ハンバーガーショップb1」の記事
by bookumakk
| 2018-06-08 21:44
| 創作
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