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2018年 03月 20日
「あぁ、それは捨てないで」 気だるそうに起きた彼は、片付けをしている私に感謝をする様子もなく、ぶっきらぼうに言う。 こうして毎週訪ねては片付けているというのに、まともなお礼は記憶にない。 それを咎めたくも、言い返されるのが嫌で不満を呑み込む。 なんならこの空き缶だって勝手に捨てようとしてしまったのだから、彼の機嫌は悪いに違いない。 はっきり言うと彼は短気だ。 空き缶は自販機で良く見るコーヒーのそれで、特別なデザインでもなんでもない。 「でも、これ、空だよ」 「いいんだよ、そのままで」 これ以上はやめた。 思い返せば、いつきてもあの缶が置いてあった。数ヵ月前からずっと同じものだったのだろうか。 なぜ今になってこれを捨てようと思ったのだろうか。 「大学行かなくていいのか」 今日の授業が休講になったことを告げると、彼はただ頷いた。 本当なら、どこかに出掛ける提案を彼から持ちかけてほしい。 それなら、どこだろうと文句は言わない。 彼が家から出るつもりがないことが、ほったらかしの寝癖でありありとわかる。 「どこか出掛けない」 「今から」 それ以上はやめた。 「課題とか大丈夫なのか」 心配というよりも、考えをどこか別のところへ誘導するような、電話でしか話さない両親のそれと同じ響きだった。 「ちょっと、外に行ってくる」 後ろポケットにスマホともう1つなにかを入れて、彼は部屋を後にした。 部屋は片付いた。 部屋を散らかす人が居なくなったのだから、これ以上は散らからない。 空き缶の中身を覗いてみた。 何も入っていない。 試しにひっくり返してみても、水道水らしきものが数滴落ちてきただけだった。 どうして綺麗に洗った缶を捨てないでというのか。 彼の美的感覚のようなものを疑いたくなった。 いや、そのために学校に行っている筈なのだが。 わたしの提案では外に出なかったというのに、彼は自分で決めた用事とやらにはずいぶん長いこと時間を費やしていた。 もう、彼は帰ってこないのではないかと思わせるほどだった。 彼の家は、彼の持ち物だった。 確か、親が有名人で、その財産を相続したのだと言われていた。 彼のリビングは、一人の空間であった。 彼が帰ってくれば、それはもう窮屈に感じるほどに。 人が一人住むだけの空間は、どんなに広くても、他人を寄せ付けない、風水的な何かを感じさせた。 風水といえば、この缶の処遇もどことなく理解できる。 なるべく思い返しながら、以前と同じように置いてみた。しばらく悩んでもみたが、そこまで悩みもしなかった。 私は彼の部屋を自由に出入りできる立場だというのに、リビングから他の部屋に行くことを酷くためらった。 もし、リビングですべての事が済んでしまえば、他の部屋に行こうだなんてことも考えないのだが、家主のためだけにある空間で、どんな関係であろうと客人でしかない私には、楽しめるものもなかった。 なんなら、この缶に何か秘密でもあれば退屈なんて覚えなかった。 ----------- 完結作品。「タイトル」ジャンル 小説・リメイク作品「僕が見たあの夢の続きを」フィクション 過去作「半分の夢」を書き直した作品。 小説「盲目モグラの恋」 小説「風雷に愛された魔女」 小説「酒池肉林と菓子の家」 小説「家畜捜査」推敲一回目 超短編小説「店番のあの子」 恋愛 店先で店番をするあの子。恥ずかしさで遠目にしか見れない少年は彼女のことをよく知らない。 超短編「虹を追いかけて迷子になった子供」改訂版 動物 飼う時から、家族として受け入れる時からわかっている短い命の家族。それでも、その出会いは何物にも代えられない。 超短編小説「傘女と小雨坊」人情 梅雨の時期、傘女になった母親に捨てられた子供は、その仕草から小雨坊と呼ばれていた。 ------------ 声劇団SHI'STUDIOの皆様にご協力いただき、 ボイスドラマを作りました。是非聞いてください。(dropboxからDL推奨。今後は動画サイトへの投稿を予定) 「山芋ウナギ」 私がとってもハマっている「ハンバーガーショップb1」の記事 小説以外に、 ペンギンを始めとした動物、草花などの自然について写真を撮ったりしながら記事を書いてます。 もし良かったら覗いてみてください。 勝手にアーティスト紹介コーナー
by bookumakk
| 2018-03-20 14:56
| 創作
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