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2020年 10月 09日
タイトル「クリーム丸」 2020/10/09加筆
校舎内に授業の終わりとお昼休みの始まりを告げるチャイムが響き渡る。 パブロフの犬よろしく条件反射で空腹を覚える。 実のところ、もっと前から、時計がチャイムの十分前を指し示す頃からお腹が空いていて仕方がなかった。 お預けから解放された犬みたいな心持ちで足早に購買へと向かう。 英語教師の田中から「廊下を走るなよ」という言葉を背中に、下り階段の一段目と足を踏み入れた。
購買は一階の昇降口前にある。正直なところ、一階の三年生と二階の二年生ではスタートからゴールまでの距離に雲泥の差がある。 今や運動部でもないのに体力があるのは、毎日の激戦のおかげかもしれない。 いつもより速いタイムでたどり着けたつもりでいたが、すでにおばちゃんはおろか一列目の生徒の姿すら見えない。 購買のカウンターは横並びに生徒が五人並べればいいくらいの幅なのに対して、そこに押し寄せている生徒は三十人くらい。 おおよそ一クラス分はすでに自分の前で列を成さずに入り乱れている。
今日もダメそうだった。お目当てのクリーム丸は売り切れているに違いない。 そのクリーム丸という名前は知っているけれど、実際には食べたこともなければ手に取ったことすらない存在だ。 すでに人込みからクリーム丸を求める声が無くなっていることからも、売り切れであることは明白だった。 それくらい人気のクリームパンなのだ。 食べたことのある先輩からの話では、なんでもクリームを食べているのではないかというほどにクリームが詰め込まれている。 パンはそれを可能にするための入れ物でしかないのだという。
その先輩はすでに卒業していて、初めて購買を利用したときに出会ったことはとても印象に残っている。 「お、一年生か、ここの購買すごいだろ。一年は三階で遠いから大変だよな。でもよ、ここのクリーム丸、旨いから絶対食べたほうがいいぞ」 積極的な性格じゃなかったため、初日は人の波にうまく入り込めず、結局一つも買うことができなかった。 「ほら、焼きそばパン」 「いいんですか」 「そのうちパシリにするかもしれないぞ、なんてな」 その先輩が高校に入ってからの初めての先輩だった。 もし自分が女子生徒だったら、きっと告白を検討するくらいすがすがしくてかっこいい先輩だ。 「おばちゃん、焼きそばパン」 ボリュームたっぷりの焼きそば。 これまたパンがメインなのか、それとも焼きそばがメインなのか。 夏祭りの屋台で焼きそばだけ売っているならそれだけでも必ず買いたいくらいおいしい。 それがこぼれない様にラップでぐるぐる巻きにされているので、最初はどこから開ければいいのか苦戦する人も多い。
「どうだった」 教室で先に昼御飯を食べていた遠藤はすでに弁当箱を包み終えていて、携帯ゲーム機で時間をつぶしていた。 「今日も焼きそばパンだ」 戦利品を見せつけて、今日もクリーム丸は手に入らなかったと報告する。 なぜそんなにも手に入らないのか、 作戦参謀でもある遠藤との討論では「なぜ大量生産しないのか」という疑問を「プレミア感を出すためにわざと少ない」という結論で結び付けた。 だとしたら、まんまとおばちゃんの手の内ということになる。
「やみくもに挑戦して買えないなら、何か作戦を考えないといけないな」 それからしばらく遠藤が話し続けることになるのだが、この焼きそばパン。 油断するとすぐに中身が落ちるので返事は頷くだけになってしまう。 そこで遠藤が考えた方法としては、スタートをフライングすること。 つまりは不正を働く他ないということだった。 ここまでくると手段は選べなくなってくる。
その内容はいくつかあるが、四時限目の終わり際にトイレに行くふりをする。 もしくは、保険室に行くことで、その帰り道に購買の前を通ることができるという仮病作戦。 ただトイレは教室から廊下を挟んですぐ目の前なので、あまり長いこと席を外すと余計な憶測を呼ぶことになる。 また保健室に行くためには付き添いを必要とするため、保健委員に悪事の片棒を担がせることになるという問題点があった。
そもそも不正を働くこと自体が問題なのだが、可能性を語る分には自由だ。 それに保健室作戦で相手が男子ならそれとなくパンで買収することも可能なのだろうけれども、 相手があの物静かで優等生な村上さんともなれば、もう無理な話だ。 「でも、村上さんならなんかいい案が浮かびそうじゃないか」 遠藤の言い分ももっともである。 もしかしたら二人の浅知恵を合わせるよりもよっぽどいい方法を思いつくかもしれない。 「それに、いいきっかけになると思うぞ」 「それは余計なお世話だよ」 仮に頼むにしたって、昼食を取りながら雑談をしている女子グループに声を掛けるのは、購買のもみくちゃよりも勇気がいる。 そもそも教室の中でさほど目立つ方ではない男子が女子に話しかけるのは危険だ。 あいつもいるし面倒なことになりかねない。 #
by bookumakk
| 2020-10-09 16:57
| 創作
2020年 10月 08日
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by bookumakk
| 2020-10-08 20:23
| 日記
2020年 10月 08日
今後、noteの方で有料記事を書いてみようと思います。 場合によっては過去の作品を消して、推敲したものをそれに当てる可能性もあります。 すべての作品をそうするわけではないので、引き続き楽しんでいただけたらと思います。 更新の仕方を模索していて更新頻度が曖昧ですが、 noteとstand-fm、そして長いことお世話になっているエキサイトブログを跨ぐ形で更新を続けていきますので、「魚亭ペン太」を今後ともよろしくお願いいたします。 #
by bookumakk
| 2020-10-08 20:00
| 日記
2020年 10月 06日
「長っちり」 長く腰を下ろしたままの尻つき、転じて他人の家を訪れてなかなか帰らない人のこと。なんて言葉がありまして。 今も昔も飲み屋というものがありますが、私この前少しばかり飲み屋の店員になった事がありまして、よく行く飲み屋のマスターがなんでも話の五割は聞いていないなんて風に冗談めいていましたが、作業をしながら話をするというのはなかなか難しいものでした。 そんななかチップをくれる気前のいいありがたいお客さんもいれば、厄介なお客さんというのもいるもので。 酩酊した客。店に入るなりひゃっくりが止まらない。一体なにしに来たんだと。 もう一つはありがたくもたくさんごちそうしてくれるお客さん。たしかにありがたいんですけれど、どんどん勧めてくるんですね。 酒を飲みながらの接客はなかなか堪えます。ほんと、ありがたいんですけどね。 もう一つは長っちり。 田舎の電車みたいに一時間に一杯のペース。 いろんなお客さんがいますがお客様は神様といいますから無下にはできません。 しかし、他の神様に迷惑をかけてはいけないのは言うまでもありません。
昔の江戸っ子。江戸っ子というのは三代続いて江戸に住んでいる人のことを指すのですが、この江戸っ子というのは長っちりを嫌う人が多かったとか。 そのためあんまり長いこと同じ店に居座るなんてことはなかった。なかでも八五郎は度の過ぎた方で、二杯飲んだら次の店。そのまた二杯で次の店と。 「長っちりをするほど暇じゃなくてね、それじゃあまた」なんていう。 そんな気難しい八五郎のところにも縁談が持ち込まれる。 お松といって、若くて器量がいい。男連中にも大変人気でさっぱりした八五郎とは息が合った。 「八五郎さん、よかったら一緒にお酒でも」 男女が仲良くなるには酒がいいとお姉さん方から聞いていたお松。さっそく八五郎を誘う。 「そうか、それならあいさつがてら飲みに行くか」 なんていって八五郎とお松。二人で夜の飲み屋へ。
「おう、八五郎、なんだあの噂は本当だったんかい」 焼き鳥屋の親父は喜んで二人を迎え入れる。 「今日はあいさつまわりだからよ。長っちりはごめんだ。二杯で失礼するよ」 「じゃあ、いつものかい」 「徳利で、お松も呑むからお猪口は二つな」 徳利傾けあって二人で二杯。いつもは一人で二杯なので倍速い。 「じゃあ、またな」 「もういくの」 お松は驚いたのなんの。赤ちょうちんのおでんに通りがかりのうどん屋。いつものあいさつ回りで店を転々とする。 「よし、次行くぞ」 「もういくの」 次第にお松もそうとは言わず、酒も入って二人の足取りは遅くなっていく。 「おう、八五郎さん。随分と美人さんを連れて」 「今度結婚するんだ。だからよ、そのあいさつまわりというわけさ」 「そしたらうちで一杯飲んでいくか」 お店以外でも知り合いがいれば飲みに行く。 お松も大分酔ってきていたからどうとは言わずついていく。 そうして一通りあいさつまわりが終わって長屋に戻る。 酔った男女がすることといえば相場が決まっている。布団に転がり込んだ八五郎とお松。雰囲気に飲まれてお互いにお互いを求める。 そうかと思えばもうだめだと八五郎。それにお松、すかさず一言。 「もういくの」
長っちりという話でございました。 #
by bookumakk
| 2020-10-06 20:00
| 創作
2020年 10月 04日
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