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2018年 01月 23日
タイトル「29日」 夕方。学校から帰ってきた僕は、夕食の献立を想像するのが楽しみなほどにお腹が空いていた。 それだというのに、台所からは何の音も匂いもしない。 まさか、こんな日に限ってレトルトのカレーではないか。 がっかりしかけた僕の帰宅を知るなり、母は嬉しそうに提案をする。 「外食いきましょうか」 「もしかして」 父の合いの手に乗って、母が続ける。 「そう、肉の日だから焼き肉」 それを聞いた妹は 「わーい、お肉食べたーい」 早くいこう早くいこうと囃し立てる。 部活を終えた後の、これだけお腹が空いている状態なのだから、「焼き肉」と聞けばおおはしゃぎできる。はずだった。 確かにお腹は空いている。 でも、なぜか気持ちだけは焼き肉を食べ終えたかのような胃もたれを感じていた。 「今日は29日」 スマホの画面、テレビ、ワールドクロック。 どれを確認しても、間違いなく「2月29日」だった。 「なんだか嬉しそうじゃないわね、寿司が良かった。 」 母は気持ちを察したのか、似たような贅沢を提案する。 「やだ、お肉がいい」 騒ぐ妹と何も言わずに頷く父。 3対1で家族会議は即座に終了した。 「そうじゃなきゃ具合が悪いとか、家で寝てる」 「そうかもしれない、3人で楽しんできて」 本当は空腹で堪らないのだが、話がややこしくなる前に、腹を鳴らす前に部屋に逃げ込んだ。 「何かがおかしい」 日付がおかしいだなんて、知り合いにすら相談ができるはずもなく、不特定多数の誰かが同じ疑問を抱いているのではないかと、SNSに呟いてみた。 具体性のない、それこそ意味が深いとも浅いとも受け取れる呟きに、もし、反応できる人がいたとしたら、、、 ベッドに横になって、肉を食べている写真を載せている人たちの呟きを流し見しながら返事を待ってみる。 テロンッ。 着信音と一緒に、他の人には覗けない個人宛のメッセージが届く。 「それ、何回目ですか」 何か、やり損ねたことがあっただろうか。 繰り返す日常に気が狂わないようにするには、常に前向きに何かを考えている必要があった。 たとえば、現状について。 2月29日金曜日を繰り返していることについて。 もちろん年号も変わらない。 同じことが繰り返される毎日のなかで、違うことがあるとすれば、自分が考えていること、そして、あのメッセージの主。 共感する人がいるだけで、どれだけ救われたことだろう。 僕はすぐに彼女に会いたいと考えた。 彼女は繰り返す日常に抵抗するように、SNSのアイコンを毎日、いや、毎回変えている。 そして、その画像には小さく数字が書き込まれていた。 「5」 彼女いわく、これは五回目の2月29日なのだと。 「どうして、僕たちだけがこうなっているのだろう」 僕の問いに、彼女は簡単に応えてしまった。 「私たちが脚本通りに動かないから、今はテイク5。ちなみに君は三回目までは同じことを呟いていたよ。 」 僕にとっての二回目を、彼女は五回も繰り返している。どこか彼女がおかしなことを言っていると思った反面、それは五回目にしてわかった事実なのだろう。 「ちなみに君が二回目を経験しているのは、私がメッセージを送ったのを見たから」 「じゃあ、他の人にもこの事実を伝えるべきなんじゃ」 「そんなことをしたら、私たちみたいに取り残される人が増えてしまう。 」 彼女いわく、僕たち二人は、時間の流れに置き去りにされているのだという。だとしたら、未来の僕はどうなっているのか。 「どうやったら出られるの」 「私たちが脚本通りに動けばいいのよ」 「脚本ってなに」 「それを今、模索してるのよ。そうこうしている間に6回目になりそうね」 時計の針がてっぺんを指すと、たちまち眠気に襲われ、起きたら5月29日になっていた。 「おはよう」 履歴はなくとも、IDを覚えていたので、すぐに彼女に連絡を入れた。 だが、彼女から連絡がない。 まさか、自分だけがこの繰り返しに取り残されてしまったのではないかと、ひたすらに彼女に連絡を入れた。引くほどだ。 時間は10時。仕方なく学校に通い、彼女からの連絡を待った。 「おはよう」 まるで今までのメッセージは読まなかったかのように、あっけらかんとしたおはようだけが届いた。 「できれば君にあって話がしたい。」 僕は彼女が三駅先の高校に通っていることを知って、少し物怖じした。 なにせ、僕は中学生で、女子高生ともなれば、なにか、魔術でも扱うのではないかと思えるくらいに、近付きがたい存在である。 「この前は、ごめんなさい、生意気な口を利いて」 「いいよ、昨日のことだし」 昨日とはなんだったのかと思いながらも、僕は彼女のいる駅まで向かった。 とはいえ、金銭的に彼女が最寄りの駅に来てくれたのだが。 「思ったより幼いんだね」 「まだ発展途上だから」 イケメンじゃないことをわらって誤魔化すと、彼女も期待に添えなくてごめんなさいというのだった。 地味だった。とはいえ、ブサイクとかそういうった酷い顔でもなかった。ただ、年上に対するもっとこう遊んでいるイメージとはかけ離れていただけに、はじめは道を訪ねられるのかと思っていた。 「まさか学生服で来るなんてね、補導されたいの」 彼女はしっかり私服で、大学生にも思えるような風貌をしていた。 「にしても、学ランだなんて懐かしいなぁ、高校はブレザーだけど、やっぱりこっちのほうがいいな」 「えっと、僕はどうしたら」 「とりあえず、忘れ物を取りに行く体で家まで帰りなさいよ。私はタクシーでそっちまで行くから。あっ、お金ならアルバイトしてるから大丈夫、しかも給料日は28日」 お金なら日付が戻れば使いたい放題なのだと笑う彼女に、住所を伝え、僕は家に戻った。いままでにないくらい急いで自転車を漕いだ。 でも、今になって思えば、自転車を置き去りにしても、日付が戻れば、自転車も元の場所に戻るのではないか。 「正直、私はこの機会を利用してやろうと思うの」 タクシーを使えばと提案するも、なんだか勿体ないという理由で自転車の二人乗りになり、運転手に任命された。 「戻れなくていいってこと」 「そういうことじゃないんだけれど、せっかく一日をやり直せるんだよ。好きなことした方がいいじゃん。」 「たとえば」 「たとえば、このまま海に行くとか」 「えっ」 「大丈夫、片道だけ考えればいいんだよ。どうせ、寝たらベッドの上だから。それにほら、お姉さんが何でもおごってやるぞ、コンビニなら」 「ケチじゃん」 僕は彼女に親近感を覚えていた。きっと、それは、どこにでもいる誰もが、同じことしか言わないからなのだと知った。だから、彼女も僕に対してこんなに親しくしてくれるのだと思った。 「RPGみたい」 「RPGってゲームの種類だっけ」 彼女は僕の話をよく聞いてくれた。 「ほら、村の前で「ようこそ、ここはどこどこの村です」って言う村人いるじゃん」 「あー、なんとなくわかる、兄がやってたの見たことある。」 「他の人がそんな風に見えるよね。」 「じゃあ、私たちは冒険者ってことね」 「そういうこと」 自転車で走るのは何回目でも疲れた。でも、朝になれば、体はそんなことなかったのだと言わんばかりに、元気だった。 その代わり、何度二人乗りをしても、まったく体は鍛え上がらなかった。記憶だけが毎日を繰り返しているのだと知った。 「広島まで行ってみる」 「どうやって」 「電車でだよ、自転車でもいいけど、それじゃあ隣の県にすら着けないよ」 「一日で行けるものなの」 「どこまで行けるかが面白いんじゃん」 僕は彼女に言われるまま、勝手に帰宅する自転車を、いつもの癖で鍵をかけ、電車に乗った。 時刻表のアプリで調べると五時間かかることがわかった。 「夜の10時か、観光もできないね。」 「そもそも、補導されそう」 「大丈夫、されても戻るから」 「そしたらさ、次は始発に乗っていこうよ」 「始発って何時よ」 「5時前かな」 「それは、起きれないかな」 「じゃあ、9時」 「いいけど、電話して起こしてね。交換しようか、連絡先」 二人でスマホの画面を見せあって笑ってしまった。 こんなことをしてもスマホには履歴は残らない。 それこそ、あたまで覚えておくしかない。 「覚えられるの、電話番号」 「頑張ってみる」 広島駅についた。 とりあえずファミレスに入って、兄弟らしく振る舞って、そこに入り浸った。しばらくして、二人は眠ってしまった。 せっかく広島まで来たのに、したことと言えば、ファミレスで食事。 今度はもっと計画的にと考えながら、彼女に電話を掛けた。 「もしもし」 「あっ、おはよう」 「あぁ、君か。今日はさ、ちょっと家に遊びに来ない」 「広島はいいの」 「まぁ、一回行ったから、とりあえずいいじゃん」 そんなこんなで、結局二人が会う時間は前回と変わらなかった。ただ、今度は僕が彼女の家にタクシーを走らせていた。 「こっちに着いたら払うから、そもそも減るもんじゃないんだから」 電話口で住所を伝えられ、これをそのまま運転手に伝えて車を走らせた。 「あそこのお嬢さんと知り合いですか」 「有名人なんですか」 「有名人も何も、橘家のお嬢様ですよ、知らずに訪ねるのですか。手土産の一つでも持っていった方がいいですよ。」 お金はいいからとタクシーの運転手は、手土産をもたせてくれて、その代わり、私のことを然り気無く伝えてくださいとだけ頼むのだった。 「えっ、手土産、いいよそんなの、あの運転手でしょ、いつもあんな感じなのよ」 彼女いわく、屋敷専属の運転手に登用されたいらしく、こうして媚を売っているのだという。 「起きれないっていうのは嘘、本当は家から簡単に出られないからなんだよね」 彼女につれられて歩く庭は、実家が何軒立つかわからない。 そして、何人もの使用人が僕のことを見つけては挨拶がわりの会釈をするのだった。 「こんなに人がいるとさ、抜け出せる時間まで待たないといけないんだよね。 」 僕は彼女に案内されるがまま、部屋に通された。 「いつもなら紅茶を、とかいうんだけれど、そういうのは時間が勿体ないからなしね。 」 「お嬢様だったなんて知らなかった。 」 「だって、私がお嬢様だと思ってないもの。 」 彼女は書斎からノートを取り出すと、屋敷全体の流れを教えてくれた。 「ねぇ、一人で抜け出すのはもうつまらないから、君が私を連れ出してみてよ。 」 「どういうこと。 」 「だって、面白そうでしょ。」 彼女の顔はふざけているようには思えなかった。 「じゃあ、ほら、作戦会議。 」 「連れ去られる人が作戦会議って。」 「そうでもしなきゃ、警備員に捕まっておしまいでしょう。 ちゃんと聞いて」 彼女はまるで頭の中に図面があるかのようにして、こと細かく屋敷の中のことを教えてくれた。もしこれが部外者に知れたら、屋敷のなかは泥棒で溢れかえるかもしれない。 「どう、覚えた。これから屋敷のなかを案内してあげる。 」 大掃除でもしているのか、荷物を運んでいる使用人が多く見えたのは、彼女の声に遮られた。 一日が繰り返している。 ひょっとしたら、それが永遠だなんて思っていたのだろうか。 だとしたら、僕はバカだ。 「昨日の焼き肉、美味しかったね。」 朝ご飯から胃もたれしそうな話をする妹。 そして頷く父。 母は世話しなく朝の準備を進める。 「ほら、いつまでパジャマなの、早く制服に着替えなさいよ。」 「えっ、昨日焼き肉って。」 「だってあなた、具合悪いって言って来なかったじゃない。 」 「あ、あぁ、そうだった。」 「変なおにいちゃん。」 僕はすぐに部屋に戻って着替えようとした。昨日着ていた服は洗濯に出されていて、新しく服装を考える暇もないまま、すぐに家を飛び出した。 日付は確かに変わっていた。 3月1日。 既視感からすぐに電車に乗り込み、揺られる三十分に酷く苛立ちを覚えた。 駅を降りてから、すぐにタクシーを捕まえ、どこに行くかを訊ねられた。 「お客さん、だんまりだとどこにも連れていけませんよ。」 住所が思い出せず、彼女に電話をしようと思ったのに、彼女の電話番号は履歴に残っていなかった。 だとしたら、昨日の僕は何をしていたのだろう。 何か変化があったなら、彼女は僕に電話をかけていたかもしれない。 でも、きっと思い出せずにいるのだ。 「一番大きい屋敷までお願いします。 」 「えっ、それってどの範囲で。 」 「一番近いところです。 」 「わ、わかりました。 」 ドライバーがドライブレコーダーの電源を入れたのがわかったが、この際、そんなことはどうでもよかった。 「こんなところに用でも。」 詮索をするドライバーを無視して、料金メーターに記された料金を払って車を後にした。 もう、手持ちではタクシーにも乗れないし、電車賃もない。 屋敷の中は、外から見ても誰もいないのがわかった。 「どうして来てくれなかったの。 」 彼女が怒っている姿を、見たこともないのに想像できてしまった。 3月の外はまだ寒い。 厚着が足りなかったのかもしれない。 半開きになっている門をくぐり、長いこと手入れのされていない庭に、椿の花が勝手に咲いていた。 作戦会議の意味はどこにいってしまったのだろう。 屋敷のなかはもう、だいぶ疲れていて、軋んだ音で悲鳴をあげていた。 「ねぇ、おにいちゃん、僕たちの遊び場で何してるの」 子供達に見つかったときにはもう夕方の4時を過ぎていた。 「ここに誰か住んでいたかな」 「おばあちゃんが一人、住んでたよ。でも、亡くなっちゃった。」 僕は少しだけ冷静になった。 2月の29日なんてない。 だとしたら、あれは全部夢だったのだろうか。 嘘でもいい。 彼女を連れ出せた夢を見れたらと、少し横になった。 子供たちのはしゃぐ声が、どうにも僕を眠らせてはくれなかった。 ----------- 完結作品。「タイトル」ジャンル 小説・リメイク作品「僕が見たあの夢の続きを」フィクション 過去作「半分の夢」を書き直した作品。 小説「盲目モグラの恋」 小説「風雷に愛された魔女」 小説「酒池肉林と菓子の家」 小説「家畜捜査」推敲一回目 超短編小説「店番のあの子」 恋愛 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by bookumakk
| 2018-01-23 21:40
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