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2017年 08月 11日
魔術師。 それは魔術という凶器を振りかざして、国民を脅かす野蛮な存在だった。 魔術が神秘的だなんて御伽話の中だけだった。 もしこれが、武器を持つだけの存在なら、普通の人間にも抵抗の余地があったかもしれない。 虚空から自然現象を引き起こす彼らを前に、人類の進化に置いて行かれた従来の人類は、 新しい人種に根絶やしにされようとしていた。 「隊長。もはやここまでかと」 対魔術組織のリーダー、オルドネ・カーネスは火炎に溢れかえった基地内部で、 黒煙にむせながら隊員たちに謝った。 「私の理想が、皆の命を無駄にしてしまった。すまない」 彼の後悔を聞き入れるものは、部下の一人、ジュニアスだけだった。 「隊長、私たちの戦いは無意味ではなかったはずです。子供たちを逃がすことができただけでも」 「いや、お前もまだ子供のようなものだ、今からでも」 火炎が建物の柱を食い散らかしていき、朽ちた柱は音を立てて倒れていく。 「せめて、奴らに抵抗するだけの力があれば」 「ここから逃げることができれば、その可能性は十分にあるはずです」 「それこそ、奴らのように転移の魔法でも使うか」 「そうですね、そうするしかなさそうです」 オルドネにとって嫌悪感の象徴である魔法陣が、火炎に囲まれる二人を囲みだした。 「おい、これはお前がやっているのか」 オルドネの不安に満ちた声は、炎に包まれた空間から途切れるようにして消えていった。 ーーー 「隊長、大丈夫ですか」 酷く身体を強打した二人が空間転移したのは馬小屋の前だった。 先に起き上がったジュニアスはオルドネに手を差し伸べた。 「すまんが、その手は取れない」 オルドネは彼の手を払いのけ、自ら立ち上がった。そして、警戒心から一歩下がるのだった。 「わかってはいます。皆さんを騙していたことになりますよね」 「命は救われた、なら、もっと早く」 「それはできません。二人しか飛ばすことができないんです」 「あんなに恐ろしい魔術が万能じゃないなんてな。本当は自分の命が惜しかったんだろう。 全員を助けたら、殺されると思ったんだろう」 オルドネは狂ったようにジュニアスを問い詰める。 ジュニアスはこうなることをわかったうえで行ったことを悔やみはしなかったが、 それ以上言葉を発しなかった。そして、オルドネの言葉を聞くことを止めた。 「ありがとう。ジュニアス。でも、魔法だけは、家族を殺した魔法だけは許せないんだ」 オルドネは転移してしまった虚空に向かってただただ泣き叫んだ。 「どうして俺だけを残したんだ。できることならあのまま」 それは、ジュニアスには届かなかった。 ーーー 「ねぇ、そこの旅の人」 商人が話しかける相手は大概騙せる相手か金持ちに限る。 旅人はまさか自分が金持ちに見られているとは思わなかったので、この商人に警戒心を持った。 商人にとっては相手の顔色をうかがうことは基本中の基本なので、その表情から疑われていることは十分に理解していた。 しかし、それで怯むほど腕に自信がないわけじゃない。 「何か、欲しいものはないかい。言ってもらえば用意できるかもしれないよ。もしくは、どこかに荷物を送るとか」 「なんだ、そういうことかい。それなら、故郷の果物が食べたいね、オレンジというんだが、知ってるかい。ここらへんじゃ出回らないそうで」 「オレンジだなんて、ずいぶん遠くからの旅なんですね。その果物の相場はいくらくらいかな」 「銅貨一枚くらいか」 「じゃあ、ここは一つ珍しいということで、もう一枚足してもいいかな」 「あぁ、用意できるものならね」 「はい、どうぞ」 商人が袋から手を出すと、確かにオレンジが出てきた。 「あぁ、これだ、とても懐かしい。この酸味、これだよ、これこれ」 「満足いただけましたか」 「あぁ、もう旅をやめようかと思ったけど、まだ頑張れそうだ」 「ところで、旅の方。どこまで行くつもりで」 「神殿です」 「巡礼ですか」 「そうですね、そんな感じです」 「それほど熱心な方なら、私からサービスさせてください。はい、もう一個」 再び袋からオレンジが差し出される。 「商人、その袋いっぱいにオレンジはないのかい」 「いや、それは」 「そうだよな、珍しいことにかわりはないからな」 「神殿に私と仲のよい商人がいます。彼に手配しておくようにお願いしてみますよ」 「それはありがたい」 旅人はオレンジを大切そうにして持つと、商人の前から去っていった。 ーーー 「そろそろ店じまいかな」 「ねぇ、このお店って、なんでもあるのが売りなの」 声の主を見つけて視線を落とすと、そこには腰の高さほどしかない少女がこちらを見上げていた。 「そうだね、君の好きなおもちゃでも髪飾りでも何でも用意できるよ」 「それなら、魔術師を殺す剣が欲しい」 「それは」 可愛らしい見た目からは想像もつかない言葉に、この商売の厄介なところをつかれてしまった。 「すいません、うちの娘がへんなことを」 母親が慌ててこちらに来ると、娘を背中から抱き寄せるようにして静止させる。 「だって、パパは魔術師に殺されたんだよ。あの剣があれば魔術師は殺せるんでしょう」 魔術師殺しの剣。 先の対魔術組織による反撃の際に使われた聖剣の名前なのだが、この剣を知らないのは魔術師からの被害がなかった人くらいだろう。 なんでもそろえるのがこの店のモットーだが、それができたのならば、商人ではなく泥棒をしていた方がお似合いだろう。 確かにできないことはないのだが。 「もう、魔術師は殺されたわ、一人残らず。だから、パパの仇を討つ必要はないのよ」 娘は聞き分けがないようで、半場強引に連れ去られたというのが正しい表現か。 確かに魔術師たちは大量虐殺をされた。魔術殺しの剣は扱う者に魔術抵抗力をあたえ、降りかかる魔術を無力化した。 そうなればもはや白兵戦になり、魔術師と人間の立場は逆転した。 武器を持たず、魔法だけで戦ってきた魔術師は武器を持たず、ただただ切り殺されるだけだった。 その偉大過ぎる力は、多くの魔術師を殺した血塗りの剣だったが、人類を救ったことから、神殿に祀られる聖なる剣となっている。 ーーー 商人の足取りは軽かった。 それは袋に何も入っていなかったからなのだが、もとより商人は何一つ商品を持ち歩かずに商売をしていた。 何もないところから商品を出すのではあまりにも不自然なので、求められた商品の大きさによって使い分ける空の袋だけは用意していた。 他の商人は馬車を使って商品を運んでいることから、彼は商人らしくもなかった。 「売り切れか、それとも仕入れの金がないのか」 他の商人たちからは羨まれる存在になっていた彼は、その視線を気にしつつ、もう一か所の倉庫に入ってあたりを見渡すと、神殿の裏庭を思い浮かべた。 (あそこなら人気も少ないはず) 彼が扉も開けずに倉庫から姿を消すと、倉庫の中は何もない空間が出来上がった。 彼がたどり着いたのは、神殿の裏庭。夕方になれば誰もそこにはいなくなることは何度も来ているので熟知していたはずだった。 「誰かいるのですか」 物音に気が付いたのか、修道女が彼に声をかけるのだった。 それは彼にとっては大きなミスで、もしそれがばれたのならば、真っ先に剣を刺されることになる。 「見ましたか」 それは見られてはいけないものを見られた人の発言そのものなのだが、どうやら修道女はそれを見てはいなかったようだ。 「ごめんなさい、私は目が見えないのです。人のいないところで風に当たろうと思っていたのですが。お邪魔にはなりませんか」 「えぇ、全くそんなことはないですよ」 「それならよかった。あなたは私のような人を邪険にしないやさしい方なのですね」 「いえ、むしろ一人の時間を邪魔してしまったのではないかと」 「そんなことはないんです。もしよかったお話の相手になってもらえませんか、私はこの神殿の外どころか、世の中のことを何一つ知りませんので」 修道女は彼のいるほうを向こうと努力をしているようだが少し違う。しかし、それは気にすることでもなかった。 「それなら、なんでも」 彼女が彼をどう思っているかはわからないが、彼からすれば彼女はとても美しく、聖剣よりも崇めるに値する存在だった。 「何処から来たのですか」 「エーヌの街です」 「エーヌはどれくらいの距離があるんですか」 「そうですね、馬車で三日ぐらいでしょうか」 「その馬車とはヒヒーンと啼く動物のことですね」 馬ですら見たことがない彼女からすれば、その話は理解しがたい話のはずだが、どうにか話を合わせようと必死になっているのがわかる。 それから、どうにか彼女がわかりやすくなるように説明をしてみたが、視覚による知識がないことには、彼女も話を聞くだけになってしまった。 「よかったら、お手を握らせてもらえませんか」 そろそろ帰る頃を悟ってか、彼女は彼に握手を求めた。 「声だけでわかるのでしょうけれど、こうすればもっとわかったような気になれますね」 修道女は笑っていた。眼には何の変化がなくとも、彼にはそれがわかった。 ーーー 「調子が狂ったな」 神殿に祀られる聖剣の置かれる祭壇に移った彼は、聖剣に触れ、自分の倉庫を思い浮かべた。 しかし、そこから少しも動くことはなく、その姿はただただ聖剣のご加護を受けとる熱心な教徒になってしまった。 「やっぱり無理か」 彼はオレンジと同じ要領で聖剣を運び出そうと考えた。しかし、聖剣は魔術を無効化する。 運び出すには持ち上げる他なかった。 聖剣は今や平和の象徴でもあったが、幼い少女には仇討の剣でしかなかった。もちろん人間にとって歴史上は仇討の剣である。 しかし、今はもう活躍の場を失った剣であり、祭壇に飾られるほかない。それが持ち出されることはないだろう。 少女の言葉に不安を感じていた彼の想像していたことは取越し苦労だった。 神殿の近くで商売をする男にオレンジを渡し、このような風貌の男が来たら売るように伝え、再び裏庭に戻って自分の倉庫を想像した。 何もない倉庫は想像しやすい。 もしここが本当に商人としての倉庫であったなら、商品の一つ一つを把握していないとこの場所に転移ができない。 転移をするためには、想像した景色とその場所がほぼ一致しないといけない。だから彼は自分の見知ったところにしか転移ができない。 彼は迫害されるべき存在ではあったが、商人という立場を使ってその身を隠していた。 商売で魔術を使ってはいるが、その袋で取り出せないものは後日用意するとして、商人らしさを取り繕っている。 魔術師であることを隠すためには、魔術を全く使わないことが最も適切な手段かもしれない。 しかし、魔術師はその魔術が扱える代わりに極端に体が弱い。力仕事もろくにできず、長旅もできたものではない。 彼は街の外に出歩いたことでひどく疲れてしまったため、すぐに寝床に入った。 ーーー 「号外、号外だ」 新聞売りがまき散らす声と新聞紙を拾い上げた彼は顔が青ざめた。街の誰もがその号外に声にならない悲鳴を上げていた。 「神殿から聖剣が盗まれた。生き残りからの復讐が起きるかもしれん」 いつも見かける商人たちは、なるべく神殿から遠くに逃げるために急いで荷造りをはじめていた。 「おい、お前も早く逃げないと焼き殺されるぞ」 あの人が作り上げた平和が崩れていくのを、その人込みから感じ取った彼は、すぐに倉庫に向かうと神殿へ転移した。 「あぁ、あなたも来ていたのですね」 彼が庭に着くと、修道女は気配を察したらしく声をかけてきた。 それを彼女の勘違いだとして無視することもできたのだが、彼の良心と恋心がそれを拒んだ。 「えぇ、騒ぎを聞いて急いできました。あなたは大丈夫でしたか」 「私はなにも、それより、聖剣はどこに行ってしまったのです」 現場にいたはずの彼女でさえ、その事件については何も知りなかった。なにより、知ることができないのであった。 「私、こんな時にお役に立てないなんて」 「誰もが自分自身にそう思ってますよ、だから、気にしないで」 彼は彼女の手を握ると聖剣の置かれていた祭壇へ足を運んだ。 そこには聖剣の台座だけが役割を果たせずに存在していた。 「物音ひとつしませんでした。でも、気が付けば聖剣が消えていたのです」 「あの剣を人目につかずに運ぶことはまず無理なはずなのに」 「運んでみようだなんて考えたこともありませんでした」 神殿にいるものが聖剣を運ぼうとすることはまずない。いるとすれば、自分と同じ魔術師ではないだろうか。 しかし、あれだけの重さがある剣を、魔術師一人で持ち去ることはできないはずである。 怪力の魔術があったとしても、聖剣を持てばその効力は失われる。魔術師には到底運び込めない代物であるのは確かだ。 運ぶことも飛ばすこともできない剣をどうやって運び出すのか、彼には全く見当がつかなかった。 「あぁ、あの時の商人じゃないですか、オレンジいただきましたよ。 それにしても、見ましたか、聖剣が失われているんです。私の長い旅はいったい何のために」 「本当に恐ろしい話ですね」 「しかし、聖剣がなくなったとしたら、本当に魔術師は私たちに復讐をしに来るんでしょうか」 あの時の旅人は号外の内容を鵜呑みにしているようで、酷く困惑していた。 ーーー 彼が再び裏庭に行くと、修道女が彼を待っていた。 「あの、目が見えない私が言うのは変かもしれないんですが」 彼女は指で組んだ両手を開いたり閉じたりしながら彼に言うのだった。 「聖剣は持ち出されてないと思うんです。私は聖剣の気配が未だにそこにあると思うんです」 彼女の言葉を聞いた彼は、彼女の手を取って祭壇までエスコートした。 「見えないものは知ることができない。それは私の身の上かもしれません。 でも、目の見える人たちからすれば、見えなければ存在しないと考えるのが普通だと思うんです」 彼女の言っていることの意味を理解した彼は、すぐに祭壇の周りに魔術の痕跡がないかを調べた。 「神殿の中には花を飾るのですか」 「いえ、修道女たちの中で花を飾る習慣はないはずです。聞いた限りですが」 「それなら、熱心な教徒が飾ったんでしょうか、こんなに不規則な置き方で」 「そうですね、男性の教徒が花を飾ってもいいかと尋ねていたと思います」 「どんな人でしたか」 それをきいてしまった彼は彼女に対して申し訳ない気持ちになった。 「見てはないですけど、ずいぶんと遠くから来たみたいです。オレンジという果物が有名だとか」 魔術師がどうして聖剣を隠すためだけに神殿に来たのか。 「おい、そこのお前さん。これから対魔術組織を再結成するそうだが、参加するならヤンヌの村に集まってくれ」 神殿を訪ねてきた見知らぬ男性は男手を見つけるなり声を掛けているらしく、声をかけてはすぐに立ち去ってしまった。 「まだ魔術師の仕業だとはわからないのにあまりに軽率過ぎませんか」 彼女の疑問は確かにそう考えることもできた。 しかし、魔術師に唯一対抗できる手段を失った今、人間はすぐに魔術師と戦うために知恵を絞るほかない。 彼も魔術の仕組みを理解したものの、それを解くには魔術を行ったものをどうにかしなければならないのだと知った以上、 犯人の考えているであろう行動を予見してヤンヌの村に足を運ぶことにした。 ーーー ヤンヌの村は小さな集落で、これと言って特色になる特産物もない。人が住むためだけにある村だった。 そんなところで決起集会を行うのであるとすれば、よっぽど魔術師にばれない様にするためか。 あまりに多くの人が集まっていて、彼はあの光景を思い出してしまっていた。 もしかしたら、オルドネがそこにいるかもしれない。ありもしないことが、あの光景を思い浮かべたせいで、現実との区別がつきづらくなっていた。 「決起集会に集まってくれた諸君。私は嬉しい。これほどまでに魔術師のために集まってくれたことを」 壇上に立つ男はあの旅人だった。やはりそういうことなのだと彼は悟った。 「私は偉大なる魔術師の生き残り、あの時の私たちのように、無残な死を受け入れたまえ」 壇上の男性が両手から炎を呼び起こすと、木々に囲まれたヤンヌの村はすぐに火の海になった。 「あつい、助けてくれ」 「くそ、魔術師め、のろってやる」 「ははははは、呪いはこちらの本業だろう。燃えろ、苦しめ。あの時の私たちのように」 壇上の男はその場から逃げる様子もなく、男自身もここで死ぬつもりなのだということを知った。 もし仮に、魔術殺しの剣があったとしても、燃え移った炎は魔術ではない。神殿に戻って剣を持ってくることは考えなかった。 何より、魔術師である彼が剣を持ち出すことはできない。それが目の前の苦しむ人間のためだとしても。 ジュニアスはあの光景を振り返る様にして、苦しむ人々を一人ずつ転移させた。 苦しんで走り回る人を捕まえるのは彼にしてみれば、酷く困難なことでもあった。 「あああ、ジュニアス、お前も来ていたのか。そうだよな、なんであの時俺を殺さなかったんだ」 ジュニアスが引き留めた男性の一人は、見た目は違えど確かにオルドネだった。 廃れ切った心が浮浪者のような見てくれにさせていたが、たしかにそれはオルドネだった。 「後悔を晴らすために人を助けるなんてな、自分だけ逃げてしまえばいいだろう」 組みつかれたジュニアスは、苦しむ人々が倒れていく姿を見ることになる。 「お前も、ここで死ぬんだ、俺を裏切らずに、あの時を再現しよう。お前は逃げずにみんなと一緒に死ぬんだ」 体力勝負では分の悪い彼にとつて、彼から逃れる術は一つしかない。 「おおお、おのれジュニアス、お前だけ、お前だけ助かるつもりかあああああああああああああ」 炎に包まれたヤンヌの村は黒い炭だけになり、それ以上燃えることができなくなった。 ーーー 「大丈夫ですか」 神殿の裏庭でうめき声を聞き取った修道女は、そこに彼がいることを知った。そして、歩くよりも這ったほうが早いのだと思い、這って彼に近づいた。 「触らないでくれ、酷い火傷なんだ」 「そんな、すぐに手当てを」 彼女の言葉は虚しさがこもっていた。眼の見えない彼女は何一つ彼を助けるための手段を知らない。 「どうしたら私はあなたを救うことができますか、それとも、全盲の私には人を助けることはできないんですか」 「そしたら、そうだな、眼が見えればなんだってできるってことだね」 「えぇ、眼さえ見えれば、あなたを救うことができる。眼が見えればあなたの姿を想い描くだけの切ない思いはしなくていいんです」 「じゃあ、とっておきの魔術があるんだ。見ないふりをしてくれ」 「はい、今の私は何も見えませんから」 彼が焼けた手で彼女の頭を持つと、彼女は眼に光を感じ取ることができるようになった。 「眼が見える」 「そうすれば君はなんだってできるんだよね」 彼は意識を失い、彼女は彼のために数か月も寄り添った。 ーーー 「どうして眼を開けないんですか」 彼女が語り掛けた彼はすでに意識を取り戻している。しかし、眼を開かない。 「火傷の後遺症かもしれない」 「そんなこと言って、本当は」 「君は何も見なかっただろう」 彼は自分の眼球を彼女のものと交換する魔術を使った。それは目が見える術者でないと扱うことができない。 なぜなら対象を把握できないからだ。そして、彼女は魔術師ではない。彼の眼を治すことは不可能になった。 「もう、僕は寝たきりの人間だ。君はそれをいつまでも看ていることはないよ」 「いいえ、今度は私が話したことをあなたが想像する番ですよ。できればずっと」 寝たきりのジュニアスを眺める修道女は、目に見えるこのすべてを愛することを誓った。 終わり ----------- 完結作品。「タイトル」ジャンル 小説・リメイク作品「僕が見たあの夢の続きを」フィクション 過去作「半分の夢」を書き直した作品。 小説「盲目モグラの恋」 小説「風雷に愛された魔女」 小説「酒池肉林と菓子の家」 小説「家畜捜査」推敲一回目 超短編小説「店番のあの子」 恋愛 店先で店番をするあの子。恥ずかしさで遠目にしか見れない少年は彼女のことをよく知らない。 超短編「虹を追いかけて迷子になった子供」改訂版 動物 飼う時から、家族として受け入れる時からわかっている短い命の家族。それでも、その出会いは何物にも代えられない。 超短編小説「傘女と小雨坊」人情 梅雨の時期、傘女になった母親に捨てられた子供は、その仕草から小雨坊と呼ばれていた。 ------------ 声劇団SHI'STUDIOの皆様にご協力いただき、 ボイスドラマを作りました。是非聞いてください。(dropboxからDL推奨。今後は動画サイトへの投稿を予定) 「山芋ウナギ」 私がとってもハマっている「ハンバーガーショップb1」の記事 小説以外に、 ペンギンを始めとした動物、草花などの自然について写真を撮ったりしながら記事を書いてます。 もし良かったら覗いてみてください。 勝手にアーティスト紹介コーナー
by bookumakk
| 2017-08-11 00:53
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