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2020年 10月 14日
通学路の畑道を自転車で気持ちよく漕いでいく。
すると道を塞ぐように立ち尽くしていた人が、道を譲りながら声を掛けてきた。 「あっちにいくとあの人に会えるよ」 そもそも貴方は誰だったか。 それでも私は言われるまま、期待を胸に自転車を引き返し、その方へ向かった。 ここはどこだっただろうか。自分のいる場所を一瞬見失った。 そう、あの青春を謳歌した学生時代。 若かりし自分が何日も通った学舎だ。 建物はそのまま取り残されていた。 手入れがされていることもない。それでもまだ小綺麗な方だった。 おそらく備品が所々に残されているからだろう。 最後に誰が使ったかわからない勉強机に腰掛ける。 揺れるカーテンから溢れる太陽はすっかりと夕刻を示すほどにほの暗く、赤く橙に染まっていた。 そこに座り込んでいる。人影を見つける。 運び損ねた想い出。少し遠いようで近い。三歩もないくらいに離れた場所で、じっとそれに見惚れていた。 その美しき肌をさらした芸術。 その曲線から女性を象っていることがわかった。 その美しさを私はどこか別の、今で言う未来に対して、既視感を得ていた。 それは生きていた。 しかし感情そのものを全て取り出し、その目の前に置いたように、じっと一点を見つめて動かない。 私は遠い物語の一節を思い出して一歩、二歩と歩み寄った。 そして落としたであろう影に足を踏み入れた。 人間の光とも言えるそれを拾い上げ、彼女の唇へそっと運び込んだ。 あの物語は嘘偽りのない真実であった。 彼女は生気を取り戻し、私に微笑みかけた。 彼女は私のことを知っている。特にあの幼かった頃を。 無償の愛とでも言うべきそれが、私を抱き寄せる。 柔らかなぬくもり、両の乳房へと私の頭を抱き寄せた。 芸術に恥じらいはない。 私はただその愛を感じ、その乳房のなかに身を委ねた。 私はそれを夢だと知っていた。 はっきりと遠ざかる意識と共に、現実の暖かみが私の頬を照らしているのであろうことを、推測できるまでになっていた。 それでも、彼女はただ私に微笑むのだ。 その微笑みに意味はない。私にその微笑みが見えることはない。 私が微笑んでいるのであろうと信じているにすぎない。 私は現実を、過ぎた時の虚ろな記憶と錯誤している。 私はそこを動かず、それがはっきりと遠ざかるのを感じながら、許す限り身を委ねた。 私の見た芸術は私の温もりで温まっていた。 私の悲しみで薄ら濡れていた。 #
by bookumakk
| 2020-10-14 19:03
| 創作
2020年 10月 13日
2020年 10月 12日
「今朝聞いた話だけどね、あそこの奥さん、ツチノコ探してるって聞いたよ。珍しいことするよね」 「ツチノコってあれだろう。瞼(まぶた)のある蛇のことだ」 「それに胴が太いって聞くね」 「日本酒が好きだって聞いたよ。表に徳利を置いているのは、きっとツチノコおびき寄せるためだよ」 隣の奥さんがツチノコを探している。そんな噂を井戸端会議で取り扱っていくうちに三人集まれば文殊の知恵とばかりに集まった奥様方はツチノコについて詳しくなっていく。 そこに出てきたのが噂の本人。お鶴さん。 「噂をすれば、どうなのさ、見つかったのかい」 「朝にご飯を食べったきりだよ。昼には帰ってくるといいけど」 「今朝も見たのかい」 「なんだっておかしなこと言わないでおくれよ、毎日だって見るだろう」 「それはすごい」 「何がすごいのさ。最近じゃ丸くなっちゃって、それなのに逃げ足は早い。 今頃あのすきっ歯で歯笛吹いて頃だろうね。まったくどこに行ったのか」 噂話なんてのは広がるのが早いもので、物好きで有名な金満家、花菱の旦那ところにその話が舞い込んでくる。 なにせこの人は根っからのうわさ好き。 井戸端から痴話喧嘩まで聞きたがる。 そうなればご機嫌を取りたい人たちは、喜んで小耳に挟んだ話を伝えるわけだ。 しかし噂というのは必ず尾ひれがつくもので、まるでどこぞの神様みたいに、たちまちありがたい存在になってしまう。 「つちのこってのは特別な生き物なのか。一つ捕まえて見世物にでもして儲けてやろうか」 それを聞くなりお屋敷から小僧に商人、女中まで総出で探し回ることに。 あれから何回か別の話題になった井戸端会議を終えて家に戻ってきていたお鶴。 そこに昼飯を食いに旦那が帰ってくる。 「太郎はまだ帰ってきてないのか。 まぁ、子供が元気に遊び回ってくれるのはありがたいものだがなぁ」 「こっちとしては食器をまとめて片付けたいけどねぇ」 「これ、頼まれてたスルメだよ。それはそうとなんだか表でツチノコってのを探し回っているらしいが」 「何がツチノコだよ。あるかどうかもわからないもの追うほど、うちは余裕ないよ。 それにあんた、昨晩表で酒飲んで出したままだろう。片づけとくれ」 「ありゃ、バレちまったか。いや、悪かったよ。すぐ片すよ」 「それにしたって、どこかでうちのこ見なかったかい。今朝から遊びに行ったきり帰ってこない」 「それなら、向かいの吉兵衛と遊んでたのを見たな。声をかけたらなんでもツチノコ探すって」 「親子揃ってツチノコツチノコってなんだい。それはそんなに見つけると得でもあるのかい」 「所帯じみたお前さんにはわからんかもだが、宝探しみたいなもんさ」 「だとしたらうちのこは随分な働き者だね。とにかく早く帰ってきてくれないかね」 「そしたらこのスルメを炙ったらどうだ。あいつはこの匂い好きだろう。 それになんだかこの後は冷え込むらしいから、火鉢に当たって暖まったほうがいいよ」 「うちのこそこまで鼻が効いたかしらね。まぁ、どうせ待つなら焼きながら待とうかね」 ツチノコと言うのは味噌だのスルメ、はたまた頭髪を焼いた匂いが好きだとかなんとか。 太郎も焼いたスルメをしゃぶるようにして噛むのが大好きで、この匂いを嗅いだとなれば、 糸で引かれるかのように鼻を突き出して匂いの元まで歩いていく。 「なぁ、太郎。ツチノコってほんとにいんのかな」 「ツチノコはスルメの炙った匂いが飛び出してくるくらい好きだって、母ちゃんが言ってたからな。 この匂いを辿れば、もしかしたら見つかるかもしれないぞ」 「それ、本当」 「母ちゃんはいつも鼻声だけど、ホントのことしか言わないよ。父ちゃんがそう言ってたからな」 「その太郎の父ちゃんは冗談ばかり言うけど」 「確かにそうかもしれないけど、面白い冗談話したら右に出る人はいないって飲みの席で言われてたよ」 「それ、本当」 「本当さ。それでツチノコ見つけたらどうする」 「見世物にして小遣い稼ごう」 「それはいいね。あっ、母ちゃんがスルメ焼いてる。そういえばご飯食べてなかったな」 「僕も思い出したらお腹空いてきたよ。そしたらご飯食べた後でまた遊ぼう」 それからやっと太郎が帰ってきて昼ご飯が片付き始める。すると表から呼ぶ声がする。 「太郎。花菱の旦那がお前さんに会いたいって言ってるよ」 「ふぇ、ふぁんで」 「いいからとりあえず口の中飲み込んで」 「ごっくん。うん、わかった」 このへんでは有名な花菱の旦那を待たせるなんて事はできないので、 結局太郎がご飯を食べ終えることもなく、 母親もそれを片付けられないまま太郎と玄関先へ顔を出す。 「太郎、お前もツチノコを探しているのか」 「吉兵衛とツチノコ探して遊んでるんだ」 「それ、見つけたら俺にくれないかい」 「花菱の旦那さんもツチノコ欲しいの。そしたらお小遣い頂戴」 「あぁ、いくらでもやるよ」 「やったね。さっそく吉兵衛に教えなくちゃ」 まだご飯を食べていた途中だってのに、焼き終えていたスルメを一掴みして表へ掛けていく。 「またうちのこはご飯もちゃんと食べないで、蛇みたいに落ち着いて食事しないものかね。ほんとにスルメだけで暮らせるんじゃないだろうねうちのこは」 「いまツチノコっていいましたか」 「いえ、うちのこですよ」 「そういえば奥さんもツチノコ探してるって聞いたが」 「花菱の旦那さん。冗談で笑わそうなんてやめてくださいよ。私が探してたのはうちのこですよ。ツチノコじゃないよ」 「しかし、話の出どころは奥さんだって噂に聞いているが」 「うちはツチノコを探すほど余裕はないからねぇ。うちのこで良ければ見世物にするかい。近所の子供じゃ一番飛ぶし走る」 「こりゃまいった」 花菱の旦那も噂の出どころが聞き間違いと知る。 子供の与太話となっちゃあまともに取り合う気にはならない。 子どもたちが浮かれて走り回るのを横目に屋敷へ戻る。 「あぁ、旦那様、良いところに。なんだか親子連れの客人が多く訪ねてきてまして」 「一体どうゆう了見で」 「なんでもうちのこを探していると、聞いたからと」 推敲「2020/1/8」 「2020/10/12」
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by bookumakk
| 2020-10-12 18:12
| 創作
2020年 10月 10日
2020年 10月 09日
長編物で「クリーム丸」という作品を乗せていたのですが、
一身上の都合と言いますか、大まかに変更を加えたいと思ったので一時的に非公開という形を取らせてもらいました。 もし読んでいる最中の方がいたらごめんなさい。 一度完成した作品にもう一度手を加えるのはどうなのだろうか? 様々な意見があって、どこかで手放すのもまた完成させる方法だとも言っていたので、その方法を取りたかったのですが、やはり書き直したいと思ったのでもう一度書き直したいと思います。 実際に朗読をしてみて読みづらいこと、また画面を開いた時に文字の間隔が詰まっていて、それだけで読む気が失せそうな体裁。 改善点はまだまだたくさんあるなと。 今更ながら読者視点で考えることの大切さを考えるようになった次第です。 様々な媒体で発信してみることで、何がウケて何がウケないのか、考えるきっかけになったのはとても大事な経験をさせていただきました。 自分はこれを書きたい。とかこれを実現したいと考えてアイディアを形にするのですが、 前回の創作落語「長っちり」に関しても場合によっては快く思わない表現があるのではないか。 そういった意見を頂いたので、今一度今までの作品を見直してどんどん直していきたいと思っています。 今まで無料だったものをわざわざ有料にすることはどうなのだろう。 そんな疑問も抱いていますが、それも経験としてやってみたいことなので、ご了承いただけたらと思います。 #
by bookumakk
| 2020-10-09 17:11
| 日記
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